
出産は人生の中でも大切な出来事です。一方で、「痛みが怖い」「うまく産めるか不安」という気持ちを抱える方も少なくありません。
無痛分娩は、「痛みを我慢しない」という選択肢の一つです。お母さんと赤ちゃんの安全を第一に考えながら、落ち着いた気持ちで出産に向き合うことを目的とした医療です。
当院では2026年4月より、希望者に硬膜外麻酔による無痛分娩を開始いたします。
最初は安全性を重視し、経腟分娩の経験がある経産婦の方を対象に、子宮収縮促進剤を使用し、計画無痛分娩を行います。
将来的には、より多くの妊婦さんに対応できるよう、24時間365日安全な無痛分娩が提供できる体制を整え、希望される妊婦さんの想いに沿えるよう準備してまいります。現時点での体制に限りがあることについて、ご理解をよろしくお願いいたします。
無痛分娩とは?
無痛分娩とは、主に硬膜外麻酔を用いて、陣痛や分娩時の痛みを和らげながら出産する方法です。背中から細いチューブ(カテーテル)を入れ、痛みを伝える神経の働きを弱めるお薬を、必要な量だけ持続的に投与します。
無痛分娩は「眠って産む」方法ではありません。意識ははっきりしたまま、医療スタッフと会話をしながら、赤ちゃんの誕生を迎えるお産です。痛みが軽くなることで、呼吸や体の力みが整い、落ち着いてお産に向き合える方も多くいらっしゃいます。
ただし、無痛分娩はすべての痛みが完全になくなることを保証するものではありません。痛みの感じ方には個人差があり、分娩の進み方や体質、麻酔の効き方によって、軽くなる程度は異なります。一般的には「強い痛みが大きく和らいだ」「耐えられる痛みに変わった」と感じる方が多い一方で、一部の痛み(腰やお尻の圧迫感、いきみたさ等)が残ることもあります。
また、無痛分娩は赤ちゃんの安全も大切にしながら行います。麻酔開始後は、母体の血圧や脈拍、赤ちゃんの心拍などを確認しつつ、必要に応じて麻酔量を調整します。痛みの軽減と安全性の両立を図りながら管理する医療が無痛分娩です。
「痛みが怖い」「体力を温存したい」「落ち着いて出産したい」など、選ぶ理由はさまざまです。気になることがあれば、診察時や説明の場で遠慮なくご相談ください。
陣痛の痛みと無痛分娩の仕組み
陣痛の痛みは、子宮が収縮したり子宮口が開いたりすることで生じ、その刺激が神経を通って脊髄から脳へ伝わることで「痛い」と感じます。
無痛分娩(主に硬膜外麻酔)では、背中から細いチューブ(カテーテル)を入れ、痛みを伝える神経の働きを弱めるお薬を投与します。これにより、子宮から脳へ伝わる痛みの信号が小さくなり、陣痛の痛みが和らぎます。
無痛分娩は、陣痛の原因そのものをなくすのではなく、痛みの伝達を調整することで、出産に伴う負担を軽くする出産方法です。

硬膜外麻酔について
硬膜外麻酔とは、背中から硬膜外腔と呼ばれる場所に細いカテーテルを入れ、そこから麻酔薬を投与する方法です。
カテーテルは非常に細く、いったん留置すると、分娩の進行に合わせて麻酔薬の量を調整しながら持続的に使用することができます。必要に応じて追加投与も可能です。
麻酔の効果や感じ方には個人差があり、完全に痛みがなくなるとは限りません。分娩に必要な感覚を残すため、圧迫感やいきみたさが残ることもありますが、強い陣痛の痛みは大きく軽減されます。
硬膜外麻酔は、母体と赤ちゃんの状態を確認しながら、安全に配慮して行う医療行為です。

よくある誤解
「無痛分娩は眠って産む方法である」
→ 無痛分娩は、脳を眠らせる麻酔ではありません。意識ははっきりしており、会話や指示の理解も可能です。
「痛みが完全になくなる」
→ 痛みは大きく軽減されますが、完全にゼロになるとは限りません。圧迫感やいきみたさなど、分娩に必要な感覚が残ることがあります。
「いきめなくなり、分娩が進まない」
→ 麻酔量を調整することで、いきむ感覚は保たれます。多くの方が通常どおり分娩されています。
「赤ちゃんに麻酔が強く影響する」
→ 硬膜外麻酔に使う薬は、母体に必要最小限の量を使用し、赤ちゃんへの影響が極力少なくなるよう管理されています。
「無痛分娩は危険なお産である」
→ 硬膜外麻酔は、適切な管理のもとで広く行われている方法です。当院では母体と赤ちゃんの状態を確認しながら、安全に配慮して実施します。
「無痛分娩は特別な人だけが選ぶもの」
→ 痛みへの不安や体力面の配慮など、理由はさまざまです。無痛分娩は出産の選択肢の一つです。
当院の無痛分娩は「計画無痛分娩」です
当院では、無痛分娩を安全に行うことを最優先に考え、計画無痛分娩を採用しています。計画無痛分娩とは、あらかじめ分娩予定日を設定し、医療体制を整えたうえで無痛分娩を行う方法です。
無痛分娩では、硬膜外麻酔の管理に加え、母体の血圧や脈拍、呼吸状態、赤ちゃんの心拍などを継続的に観察する必要があります。また、分娩の進行に応じて麻酔量を細かく調整し、異常があればすぐに対応できる体制が求められます。
計画無痛分娩では、
・無痛分娩に十分な経験を持つ医師・助産師を配置できる
・麻酔開始から分娩までを一貫して管理できる
・緊急時にも迅速に対応できるといった点で、安全性を高めることができます。
なお、分娩は医学的に予測できない変化が起こることがあります。母体や赤ちゃんの状態によっては、安全を最優先に考え、無痛分娩を中止し、通常分娩や帝王切開へ切り替える場合があります。その際は、状況と理由をご説明したうえで、最適な方法を選択します。
計画無痛分娩は、痛みを和らげることだけでなく、母体と赤ちゃんの安全を守りながら行う出産方法です。ご不明な点や不安があれば、事前の診察や説明の場で遠慮なくご相談ください。
無痛分娩のメリット
無痛分娩のメリットは、単に「楽になる」ことだけではありません。痛みが強いと、呼吸が浅くなったり体がこわばったりして、心身ともに余裕がなくなりやすいものです。痛みを和らげることで、出産をより安全に、落ち着いて迎えやすくなることが期待できます。
■ 強い痛みに追い込まれず、冷静に出産に向き合える
陣痛の痛みが軽減されると、呼吸や姿勢を整えやすくなり、医療スタッフの声かけや説明も落ち着いて受け止めやすくなります。出産の進行を一緒に確認しながら、納得感のあるお産につながることがあります。
■体力の消耗を抑え、産後に赤ちゃんへ集中しやすい
長時間の陣痛で体力を使い切ってしまうと、産後の授乳や抱っこ、回復にも影響することがあります。無痛分娩では体力の温存が期待でき、産後すぐの赤ちゃんとの時間を落ち着いて過ごしやすくなります。
■恐怖や不安が軽減され、前向きな出産体験になりやすい
「痛みへの恐怖」が強い方ほど、無痛分娩により心理的な負担が軽くなることがあります。出産を「耐える時間」ではなく、「赤ちゃんに会う時間」として受け止められる方もいます。
無痛分娩は、「痛みを耐えたかどうか」ではなく、自分で理解し、納得して出産に臨めたかを大切にしたい方に選ばれています。
知っておいてほしいこと(リスク・注意点)
無痛分娩は適切な管理のもとで広く行われている方法ですが、すべての医療と同様に、リスクはゼロではありません。起こりうることを事前に知ったうえで、安心して選択できるよう説明します。
【母体への影響】
血圧が下がることがあります。
硬膜外麻酔により血管が広がり、一時的に血圧が下がることがあります。母体の血圧は赤ちゃんの状態にも関わるため、定期的に測定し、必要に応じて点滴や薬で対応します。
発熱、吐き気、かゆみが起こることがあります。
分娩中はさまざまな要因で発熱が起こることがあります。吐き気やかゆみなども、体質や投与薬の種類でみられることがあります。症状に応じて投薬や輸液などで調整します。
頭痛が起こることがあります(まれ)。
針の操作に伴い頭痛が起こることがあります。多くは保存的治療で改善しますが、程度によっては追加の処置が必要になることがあります。
足のしびれ・力が入りにくい感じが出ることがあります。
麻酔の効き方によって、足のしびれや重さを感じることがあります。分娩の進行に合わせて麻酔量を調整し、安全に配慮します。
カテーテル留置部の違和感・痛み、感染、出血(いずれもまれ)。
清潔操作で行い、異常があれば速やかに対応します。
【分娩への影響】
分娩の進みがゆっくりになることがあります。
痛みが軽減されることで陣痛の感じ方が変わり、分娩進行がゆっくりになることがあります。必要に応じて、子宮収縮を助ける薬などで調整します。
吸引分娩・鉗子分娩などの医療介入が必要になる場合があります。
いきみのタイミングが取りにくい場合や、分娩の状況によっては、赤ちゃんの安全を優先して医療介入を行うことがあります。
状況により無痛分娩の継続が難しいことがあります。
麻酔の効きに左右差が出る、急速な分娩進行、母体・胎児の状態変化などにより、無痛分娩を中止し方針を切り替えることがあります。
当院では、母体・胎児の状態を常に確認し、**「無理に続ける」よりも「安全を優先する」**判断を大切にしています。
赤ちゃんへの影響について
現在の医学的知見では、適切に管理された無痛分娩(硬膜外麻酔)が赤ちゃんに与える影響は少ないと考えられています。分娩中は赤ちゃんの心拍を継続的に確認し、出生後も赤ちゃんの呼吸や元気さなどを丁寧に観察します。必要に応じて小児科医と連携し、適切に対応します。
費用
無痛分娩をご希望の場合は、通常の分娩費用に加えて、無痛分娩費用を別途いただきます。無痛分娩は保険適用外となります。
また、分娩に至るまでの経過によっては、追加費用が発生する場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
以下の Web サイトでは、一般の方向けに無痛分娩について詳しく説明されています。
・日本産科麻酔学会 JSOAP
https://www.jsoap.com
・無痛分娩関係学会・団体連絡協議会 JALA
https://www.jalasite.org
無痛分娩をご希望の方へ
無痛分娩をご希望の方は、妊婦健診時に医師または助産師へご相談ください。十分な説明、適応の確認、同意書のご案内を行ったうえで、安心して出産に臨んでいただけるようサポートします。